遅ればせながら、あけまして。
毎月最初はゲームの購入予定を書いていますが、今月は特になし。
それに遊んだゲームの話も年末にさんざん書いたので、今年初めの更新は昨年読んで面白かった本をサラっとまとめます。長くなるとアレなので薄くペラッとね。
あとせっかくなので、今までブログで紹介してない本を中心にします。(ちゃんとチェックしていないのでかぶってたら、また同じ話してるよって暖かく見守ってください)
まず2022年に読んだ中でベストと言える作品を2つ。
エルヴェ・ル・テリエ『異常【アノマリー】』
殺し屋、建築家、弁護士、夫と妻と娘の3人家族など多数の主人公が切り替わる群像劇のスタイルか、なんて思いながら読み進めていると気づく彼らに共通する一つの出来事。
SFの面白さの一つに思考実験という要素があるが、その部分がグリグリ刺激された作品がこれ。
全ての登場人物それぞれの物語の行方、その彼らに持つ共感を巧みに操られた挙げ句に迎える物語の締め方に震えた。
もう一つベストと言えるのが、タナ・フレンチ『捜索者』
シカゴで警察官をしていた男性が妻と娘と別れて仕事も辞め、アイルランドの田舎へ移住する所から始まる。
手に入れたのは広い土地とボロボロの一軒家。
壁紙を張替え、家具を修理し、土地の人々と交流をし、近所の子供がちょっかいをかけに来て、なんて描写が延々と続くのだが、これが面白い。
わざわざ今の時代に小説を読むなんて行為をしているのは、こういう文章を読むためのなのだよって言いたくなる。
中盤からは、その近所の子供が行方不明になった兄を探して欲しいという依頼から物語が動いていく。
その着地点はまさに田舎という解決の仕方でとても良い。
国内の現代文学からは、宇佐見りん『くるまの娘』
どうしようもない家族の話であるが、このどうしようもなさこそが家族。
絆(きずな)という嘘くさい言葉ではなく、傷つけボロボロになった関係から生まれる絆(ほだし)の世界。
宇佐見りんは心理描写のリアリティや比喩表現の上手さなど全ての面で確実にそれも一作一作飛躍的に文章が巧みになっており、末恐ろしさすら感じる。
もう一つ家族の話では凪良ゆう『汝、星のごとく』
少々問題のある親に育てられ、小さな島の中での相互監視の中で青春時代を過ごした男女の物語。
凪良ゆうらしく相変わらず長尺の即死コンボを見せられているかのような不幸の連続ではあるが、地の底から見える星の美しさが胸を打つ。
今年は凪良ゆうや一穂ミチなど元BL作家というくくりで紹介される2人の作家に出会えた事が良かったですね。
特に一穂ミチ『スモールワールズ』本当に素晴らしかったです。中でも『魔王の帰還』と『花うた』が大好き。
ミステリからは白井智之『名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―』
人民寺院の集団自殺(大量殺人)からインスパイアされたミステリ作品。
発生する事件のスケールの大きさと提示される謎。そしてタイトルの意味。
全ての疑問が明かされる解決編の美しさは今年一番。ぜひ前情報なしで。
ぶっ飛んだ設定とグロい描写など白井智之らしさが感じられる『お前の彼女は二階で茹で死に』は昨年文庫化されましたので、そちらもぜひ。
あと普段本をあまり読まないけど何か読みたいなって方には、夕木春央『方舟』
地震によって地下施設に閉じ込められた男女10人。出入り口の特殊な仕掛けにより、ここから出るには誰か一人を地下に残さなければならないが、そんな中殺人事件が発生する。
地下の浸水により残り時間が迫る中、犯人を探しだし、その人物に仕掛けを操作させられるのか。
適度に短いページ数と文章の読みやすさ、そして何より最終章で全てが回収される伏線とどんでん返しというミステリのエンタメが詰まった作品。
今でもSNSなどで数十年前の作品が若者や読書初心者向けに取り上げられたりする事が多くありますが、この作品も今後末永く何度も話題になるであろう作品。
短編集からは、サラ・ピンスカー『いずれすべては海の中に』がベスト。
チップに残った記憶により義手が道路と繋がる物語。
ライブコンサートが配信ばかりになった世界で、生のライブが忘れられないバンドの物語。
などSF作品が詰まった短編集。
地球を捨て宇宙船だけで全ての営みが出来るようになった未来。そんなある日、地球から持ってきた歴史や音楽や映画、小説など全ての文化が保存されていたストレージが破壊される『風はさまよう』が一番好き。
年齢を重ねれば重ねるほど見えてくる歴史の重要性と、懐かしいという感情の大切さ。
元地球出身の乗組員と、宇宙船で生まれた新世代の若者達とズレがとても良い。
「過去から学べない者は、過ちを繰り返す」という言葉に抜け落ちているのは、記す者のバイアスのかかっていない過去の記録など無いという事。ひょっとすると忘却こそが新しい時代を作る鍵となるかもしれない。
この短編集はどれもがオープンエンドなので人を選ぶかも知れないが、センス・オブ・ワンダーに溢れた作品集。
昨年も多くの芸能人などタレントさんが本を書いていましたが、その中で印象的だったのがBiSHのモモコグミカンパニー『御伽の国のみくる』
アイドルを夢見ながらメイド喫茶で働く主人公やその客たちのどうしようもない日常のままならなさ。
小説の出来としてはイマイチではあるが、アイドルヲタなど身近で見られるからこそ血の通った登場人物の嫌な描写の上手さが光る一冊。
そして芸人からは紺野ぶるま『特等席とトマトと満月と』
20代の未婚女芸人が主人公。それほど売れてはいないけど実家暮らしで、ある程度顔は良いと言われるし、食える程度に仕事は来るというモラトリアムな心情がみずみずしく描かれている。
登場人物だけではなく、彼女の周辺の人間の描き方がとても丁寧で面白かった。
この著者はたぶん自らの経験だけでなく、そこから飛躍した物語を書ける力はあると思うのでぜひチャレンジして欲しいし、他の世界を読みたい。加藤シゲアキみたいに化ける可能性はありそうなんだよな。
ノンフィクションからは、川内有緒『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
目の見えない人に目の前にある絵画を説明するにはどう伝えればいいのか。
絵を隅々まで見て、そこに人は居るのか風景画なのか、背景は空なのか部屋なのか、色彩は鮮やかな色なのか暗い色なのか。
細部を言葉にして語ろうとすればするほど、実は私達は絵をほとんど見ていなかった事に気付かされる。
よく私とツレで一緒にドラマや映画を見ている時に、彼女はよく登場人物の服装に気をかけて見ている事にいつも驚かされる。
逆に私はそういったものにまったく興味がなく、背景の小物や風景など中心からズレた所を見てしまう癖があるらしく、作品を観た後で話しているとお互いに「なんでそんな所を見てるの?」と言い合う事が多い。
この面白さですよね。
人は経験やくせによって見る箇所は大きく違い、それによって作品の見え方すらも違ってきてしまう。
そしてまた特にアートなどハイカルチャーの分野に関しては、情報や基礎知識が重要であり、誰かに伝える際もどれだけフラットに間違いない情報を伝えるかが大事な事だと思いがち。
だが、そうではなく人それぞれの視点、それは住んでいる場所から観光で行った場所、好きな食べ物から仕事までさまざまな経験や嗜好によって一つの絵を取っても見え方が違ってくる。
あえて絵のディテールや感じた印象を言葉として語る事によって、アートを情報として摂取したり作者の意図を正確に掴もうとするのではなく、誤読することさえも味わいとするという試みとなっておりとても面白い。
目の見えない人と見える人の差異を埋めることではなく、それぞれの違いというものをアートと対話を通じ、また目の見えない白石さんを触媒として体験することにより、ただ漠然と鑑賞するのではなくもっとパーソナルな体験としてアートを楽しむという姿勢の重要性に気付かされた。
まだまだノンフィクションから、高橋篤史『亀裂 創業家の悲劇』
有名企業を作り上げた創業者。その会社を継いでいく際の跡継ぎの問題。
セイコー、大戸屋、ロッテ、ゲオなどそれぞれの創業者が強烈なキャラクタによって大きくしていった会社の引き継ぎ、そして彼らの家族のいざこざが丁寧な取材によって書かれている。
本書でもエンタメとして面白いのは、ソニー創業者の盛田昭夫の長男 盛田英夫の話。
スキー場開発の失敗から、F1への散財、そして東南アジアへ醤油を売る事業と、どれもこれも失敗してすっからかんになっていく様は豪快過ぎて笑ってしまう。
あと大塚家具のお家騒動。
父娘のごたごたの末に大塚久美子が引き継いだ大塚家具自体は結局ヤマダ電機(ヤマダホールディングス)の子会社となったが、その際に大塚家具の経営を立て直せなかった大塚久美子社長を外すかと思ったらそのままにしていたんですよね。
それを著者はヤマダ電機の創業者である山田昇の娘が26歳の若さで事故死していた事に絡め、おそらく大塚久美子に娘を重ね合わせて彼女の活躍を期待したのだろうと締めている。
その部分を読んで思わず『うーわ!著者エモっ!』って声出たよ。
ちょいと変化球としてMisa『韓国ドラマの知りたいこと、ぜんぶ』
なんだかブームにのって適当なライターが安い原稿料で書きなぐったようなタイトルに似合わず、内容はなかなかの充実度。
著者は韓国在住で一般企業で働きながらブログなどライター活動をしている方。
私のようにここ数年で韓国ドラマにハマっていろいろ観ていると、「あれっ?」って思うぐらい自分と好みが合わない作品があったりする。
そういった齟齬は割とあるあるらしく、最近の韓国ドラマはジャンルが多様化し、それぞれのターゲットとなる視聴者に向けて先鋭化した作品作りがなされているらしい。
本書ではそれらのジャンルとして、『ロマンス』『ドロドロ』『サスペンス・ホラー』『サイダー(炭酸飲料のような爽快感のある作品)』『リアリティ』の5つのジャンル、そこから派生するサブジャンルに分類し、代表的な作品を列挙することで自分の好みの把握と次に観たい作品がパパッとわかるようになっている。
またそれだけでなく、世界的なムーブメントとしての韓国ドラマ・映画の躍進の原動力はどこから来るのかの考察。
そこで特に驚いたのが、現場で働く監督やプロデューサーから脚本まで、現在の韓国ドラマは若手や新人をバンバン使うなど、世代交代や新陳代謝を活性化させた業界になっているそうで。
新人が多い分野だからこそコアな韓国ドラマファンの間では役者やスタッフ・制作会社の名前での前評判で作品を選んで見るものではないという認識が出来ているのに驚いた。
日本でも新人の脚本家を使い大ヒットを飛ばした『Silent』が日本のドラマの流れを変えるのではと言われているように、どんどんと新しい人が出てくる分野は面白いですよね。
鮫島浩『朝日新聞政治部』は現在の新聞メディアの滑落が朝日新聞を通してわかる一冊。
誰の為の報道なのかを見失い保身に走ったことにより、朝日新聞の政治部が死んだ瞬間がよくわかる。
シュリンクし続ける業界はどこも沈む船の椅子取りゲームになっているが(日本全体もそうですね)、報道機関ですらもここまで堕落し、ジャーナリズムのかけらも無い会社が新聞を発行しているという事実に頭がクラクラしてくる。
普段から新聞を読む、また複数読んでいる方はここ10年弱で政治報道が画一的になってきたことが実感としてあると思いますが、アクセスジャーナリズムによる既得権益化への危機感すら感じられない新聞業界はもうダメかもしれんね。
同じ報道のテーマでは、斉加尚代『何が記者を殺すのか』もぜひ。
おそらく世間のほとんどが忘れていたというか、過去の問題となってしまっていた統一教会をここまで長く取材をし続けていた事に対する敬意として、2022年の一冊として外せない。
他にも読んで面白かった本はまだまだありますが、キリがないので終了。
2022年の本はこんな感じですかね。
相変わらず新刊を買っても積んでばかりの日々ですが、さすがにちょっと反省しつつあるので今年はその積みを少しでも減らせればと思い、一生懸命去年買った本を崩している途中です。
そこはそれとして、今年も楽しい本がいっぱい出てくると良いですね。
最後にせっかくなので、2022年に見たドラマ・アニメと映画から素晴らしかった作品を順不同で5つ。
ドラマ・アニメは、
『パチンコ』(AppleTV)
『モアザンワーズ/More Than Words』(Amazonプライム)
『キャシアン・アンドー』(Disney+)
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(Netflix)
この5つ。
次点で『ウェンズデー』(Netflix)、『二十五、二十一』(Netflix)、『エルピス』(フジテレビ)ですかね。
『ストレンジャー・シングス シーズン4』も良かったし、『ベター・コール・ソウル シーズン6』はもう殿堂入りですね。ドラマとしては『ブレイキング・バッド』を越えてしまった。
アニメは『リコリス・リコイル』『コタローは1人暮らし』も本当に面白かった。
あと『ちいかわ』はその短さから全話見ちゃってます。たまに人の夢の中を見ているような世界観が出て来てクセになる。
映画は、
『トップガン・マーヴェリック』
『ハケンアニメ』
『かがみの孤城』
『NOPE』
この5つ。お前どんだけ辻村深月好きなんだよと言われそうだが、好きだからしょうがない。
辻村深月の本はもう著者自体が殿堂入りみたいなものなので紹介する必要も無いかと思っているが、その原作の完成度を損なうことなくそのまま映像化されていてとても良かったですね。
2022年のまとめはこんな感じで。
次回更新からは通常のスタイルに戻ります。それでは、また来月。