毎年最後の更新は、2024年に印象的だったエンタメを振り返ります。
今年はゲームに加えて、本やドラマ・映画・音楽もまとめに加えました。
2024年に私がプレイしたゲーム、見た作品なので、それ以前の発売の物も含まれます。
ゲームハード表記は私がプレイした機種となります。
ゲームの感想はプレイ当時のもので、アップデート等により現在のバージョンとは内容などが違うかもしれません。ネタバレ等もあります。あしからず。
Series X『龍が如く8』
長らく続いているシリーズですが、本作はこのシリーズの到達点でしょう。
今回はハワイに舞台を移した一行。そのマップの作り込みやベースとなるRPG部分だけでも凄い気合の入れようなのに、『どうぶつの森』フォロワーのミニゲーム(ミニなのか?)まで入っていたりと盛りだくさん。
前作はRPGとしてはちょっと荒い作りだったが、本作はブラッシュアップされて遊びやすさと爽快感がアップ。
前作『龍が如く7』の物語からどう展開させるのかと思いきや、それを上回る素晴らしいシナリオ。
ラスト、椎名林檎の「ありあまる富」が流れる場面はゲーム史に残る傑作シーンだと思います。
主人公春日一番の心の根っこにあるもの。善悪や損得ではない、その場での縁や、もっと広い意味での運命性や必然性による行動。
手を差し伸べる勇気。その手を掴む勇気。助けられなかった事を悔やみ、また何度も裏切られながら、それでも人を信じることを止めない春日一番。まさに勇者。最高の主人公ですよ。
本当にラストは感動で涙が止まらなかった。こうやって思い出してるだけでもグッと来るものがある。
PS5『FINAL FANTASY VII REBIRTH』
こちらも大ボリュームな一作。
ミッドガル脱出後から始まるストーリーで、オリジナル版でも世界が広がったり、ミニゲームが多かったりと要素が多い部分だったので、今回のリメイクではどうするのかと期待と不安が半々でした。
それが、ここまでミニゲーム含めてまっすぐに作ってくるとは。つーかコストかけすぎじゃね?って不安になるくらいのボリューム。
今回はオープンワールド的な広いマップを採用しつつも、様々なイベントやコレクタブル要素などをギュッと詰めた密度の濃い作りになっているのも良かった。
マップに配置された要素・イベントの数も丁度いい。多すぎるとうわーもういいわってなっちゃうけど、これなら全部イケるかも?って思わせる量でありがたかった。
ストーリー部分は、オリジナル版に沿いながらも演出をパワーアップさせた作り。
コスモキャニオンでのナナキ(レッドXIII)と父のエピソードが昔っから好きだから、これがリメイク版でも見事に表現されていて嬉しかったなぁ。
で、ラストのエアリスの場面ではそうきたかというね。オリジナル版とリメイク版の要素をミックスした形で表現されているのは理解出来るが、その結果オリジナル版にあったインパクトある体験としての純度は下がったかな。
そこはそれとして完結編、楽しみにしてます。
Series X『ペルソナ3 リロード』
PS2版をベースにグラフィックを大幅強化、原作のテイストを残したまま見事なリメイク。
システム周りもかなり手が入っていて、ザコ戦やアドベンチャー部分のテンポの良い快適さと、ボス戦の高い戦略性によるゲームの重さの対比が上手い。
RPGとしてはとても良くできているけど、アトラスのゲームらしい窮屈さと単調さはある。
PS2版で発売されたアペンドディスク(P3FES)の追加ストーリーがDLCとして後に配信されまして、そちらはやってもやらなくてどっちでもよかったかな。当時から思ってたが、やっぱ蛇足かもなぁ。その後の彼らを描きたかったという気持ちは受け取りましたが。
しかし、このカレンダーシステムのゲームやると、お腹いっぱいになりすぎて一回このシステム嫌いになるくらいに飽きる。
RPGとADVの融合として非常に良いシステムってのは頭ではわかってるが、とにかく満腹すぎて飽きるんだ。
このシステムに付随している、アトラスお得意の弱点を付くシステムと併せて飽きるんだろうな。
PS5『Rise of the Ronin』
最初のボスがペリー提督という出落ちゲーかと思いきや、ちゃんとしたオープンワールドゲーム。
『Ghost of Tsushima』のアクション強化版といった感じで、アクションゲームとしては本作の方が面白い。(Tsushimaは何もかもが簡単かつ単調ではあった)
ただ、Tsushimaにあった侍ゲーとしてのケレン味はメチャクチャ弱いので、侍体験としては薄い。
幕末を舞台にしたゲームで、ミッション開始時に倒幕と佐幕のどちらに付くかを選べ、それによって内容が変わってくるのは面白い。
ただ、大幅に物語(歴史)を変えるものではなく、ミッション毎にどちらの側にも付けるので、陣営を行ったり来たりしていると「テメエこの前会った時敵側に居たよなぁ?でもまあいいや」って許される所から始まったりして、幕末の志士の優しさが現代人の心に沁みる(とはいえ主人公以外の人間は容赦なく殺すけど)。
桜田門外の変ステージで、実際は駕籠の中でザクザクされた井伊直弼がこのゲームでは飛び出して襲ってくるので、私も「でっ出てきたー!!」っていうリアクションをして遊んでみたり、居合の達人として有名な福沢諭吉と戦うとマジで強いとか、主人公の隠れ家にちょいちょい来てくつろぐペリーとか、笑えるポイントがめっちゃあるので、幕末好きはオススメ(怒らない人に限り)。
『仁王』のような武器堀ゲー的システムが搭載されているが、ゲームバランスを壊さない程度のaffixしか付いてないので、通常のシナリオクリアまでに装備の重要性をあまり感じず、大量に拾う装備を整頓・処分するのがただただ面倒くさいというだけだった。
クリア後の高難易度モードに入ると装備の重要性が高まるのかもなぁという『仁王』シリーズと同じ想像をしているが、高難易度モードをプレイする気力はなく。申し訳ない。
でも、またいつか2周目遊んでもいいかなと思うくらいには面白かった。
Series X『Neon White』
道中で手に入る武器を拾って撃ったり、武器それぞれに移動スキルが設定されているので、場面によってそれらを使い捨てながらひたすら敵を殺しつつ走り抜けるのが面白い。
そんなスピード感あるゲームプレイにあわせたアートコアやレイヴなど多彩なBGMも魅力的でした。今年遊んだゲームの中では飛び抜けてBGMがよかった。
Series X『プリンス オブ ペルシャ 失われた王冠』
メトロイドヴァニアの正解はコレですというような作り。
探索要素とパズル要素。徐々に開放されるスキルによって広がるマップ。
ボス戦も難しすぎず、簡単にすぎず。
ただ、あまりにも高い完成度ではあるものの新しい要素が薄いので、つるんとした印象なので味わいが薄い感じはある。(モデル出身の役者みたいな感じ)
IGAヴァニアのような装備収集要素はないので、それがやりたいという人には物足りないかもしれませんが、完成度の高いメトロイドヴァニアとして万人にオススメ出来る良作。
Series X『Harold Halibut』
地球にはもう住めねーから宇宙へ脱出だ!と意気揚々と出てったのに、トラブルで変な星に不時着。
その宇宙船の中で、住民たちに「おめーはホントなんにも出来ねーからな」ってバカにされるおっさんが主人公。
まぁ実際に得意なスキルも学もないので、しょうがないわなぁと思いつつ雑用をしていると、その星に住む宇宙人と遭遇という物語。
行ったり来たりのおつかいアドベンチャーゲームなので、若干退屈に感じるかもしれませんが、その退屈な日々があるからこそ唯一の親友を得た時の喜びになるというゲームならではのストーリーが本当に良かった。
今居る場所が合わなかったり、無能とされたりすることがあっても、その場を形成している尺度に振り回されるべきではない。
どんな人にとっても能力に関係ない最高の生き方があるのだからね。
Switch『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』
ゼルダの伝説シリーズは主人公がゼルダじゃないという小ネタは散々コスられて来たが、やっと本作にてゼルダが主人公に。
近年のゼルダ作品のような自由度を2Dの世界に落とし込んでいるのはさすが。
つーかベッドゲー過ぎて笑った。ベッド無双。やっぱどこでも熟睡出来る人間は生命力が高いな。ホテルのまくら一つに文句言ったりしてちゃダメだと反省しました。
ただなぁUIがもうちょっとなんとかならんかったか。色々試して遊びたいゲームなのに、そこの選択でもたつくような面倒なUIってのはもったいない。
PS5『Castlevania Dominus Collection』
若干プレミア価格になっていて入手のハードルが高かった、DSのIGAヴァニア三部作のバンドル作品。
3作どれもが、このジャンルにおいて一番脂の乗った完成度の高い作品なので、現行ハードで遊べるようにしていただけるのは本当にありがたい。
サクッと遊べるボリュームなので、今後もサクッと周回して遊ぶと思います。
あと初代アーケード版のリメイクがサラッと入っているのもなんか凄い。
こちらは、ステージなどを再構成した新しい作品となっていて、難易度も抑えめで遊びやすくて良い。
Series X『Remnant II』
TPSとソウルライクの融合という変なゲーム。
変な組み合わせではあるが完成度は高い。
武器とビルドのシナジーが豊富かつ周回要素も入った作りなので、クリア後の高難易度がメインなのだろうなぁとは思うものの、私は一周クリアで満足してしまいました。
とはいえ、普通にクリアするだけでも相当おもしろい。
しょうもない即死系のステージギミックがある場面や、日本語で書かれているのに内容が脳みその表面をスーっと滑るような意味がわからんストーリーなどイマイチな部分はあるが、とても良くできているゲームです。
Series X『Call of Duty: Black Ops 6』
オムニムーブという全方位ダッシュと、全方位飛び込みが売りになった最新作。
とはいえ、飛び込み撃ちは全然使われることはなかったですね。自分も使わないし、使われる場面もあまりない感じ。
結局スライディングやジャンプがメインのいつもの感じではあるものの、伏せへの動作が若干重いので全体的なテンポ感がアップした感じで楽しかった。
シングルプレイの方は、従来のスクリプトに沿った演出メインのステージや、タイニーなオープンワールド、さらにホラー要素も入ったステージがあったりと、とにかく多彩。マルチで使う素材を使って何でも混ぜて作ってやれという、発想が南極料理人。
しかし、集団だるまさんが転んだのステージ。マジで怖かった。夜中やってて声出たわ。
PS5『ドラゴンクエストIII HD-2D』
今回新規に追加された職業まもの使いが強すぎるという、ゲームバランスの悪さが目立つ作りではあるが、リメイクとしてはそこまで悪くない。
ただ、発売当時の行列などドラクエという名前をゲームファンだけでなく、一般にも広く認知。またゲーム内容も転職システムや、ドラクエIとIIに繋がるストーリー(アレフガルドの驚き含め)などレジェンドとなった作品であっただけに、もう少し丁寧に作ってくれよとは思った。
過去の名作とされているものを、なるべく近いテイストで現代のUIやバランス(ゲーム内チートさえも許容)にし、今後も末永く遊べる形で残しておくという点では、同社のFFシリーズのピクセルリマスターは上手くやっていたと思うんですよね。
リメイクとは別に、この感じの方向性でドラクエも残して欲しいんだけどなぁ。
ただ、本作のおかげでドラクエ熱が高まり、その後『ドラゴンクエストXI』を再プレイしてクリアするまでハマってしまった。(ドラクエXIのラストはドラクエIIIのOPに繋がる)
やっぱいいっすね。ドラクエ。
PS5『アストロボット』
ゲーム自体はシンプルなステージクリア型3Dアクションなのに、異常な作り込みとユーザーに対するおもてなし、多幸感が溢れすぎた演出によって生まれた快楽の塊。
デベロッパーのTeam ASOBIの名の通り、遊びの面白さが詰まっている。
ボタンをポチッと押す、紐を引っ張ってスポン抜く、ジッパーをグッと下げる、また現実では怒られるような、壊す、散らかす、投げて割る、殴って凹ますなど、画面内にある全てのオブジェクトにリアクションが用意されている。
テレビゲームの持つプリミティブな面白さって、画面内のオブジェクトへのインタラクトとリアクションだと思うんですよね。
それをPS5のパワーを使った大量のオブジェクト、それらが出す音、DualSenseの精細な振動や指に伝わるフィードバックなど、目と耳と手が喜ぶ作り。
もはやゲームの目的すら無視して、画面内にある細かいオブジェクト(ボールやナット、アイスクリームの上にあるカラースプレーや小さな宝石など)を散らかしてまわることすら遊びにしてしまっている。
そんなゲーム内に配置されているリアリティのあるオブジェクトに対するインタラクトの気持ちよさを通して得た記憶は、このゲームのプレイ後に帰ってきた現実の世界にもポジティブなフィードバックとして現れる。
押し心地の良いエレベーターのボタン、洗剤やインスタントコーヒーの詰め替え、氷をグラスにいれる時など、実は現実にも気持ちの良い瞬間というのは溢れていたのだと再確認させてくれる。
実はストーリー重視のゲームと同じようにネタバレ厳禁。
過去のプレイステーション作品へのラブレターとなっているゲームで、あのゲームも!?このゲームも!?という小ネタの連続かと思いきや、有名なゲームをそのまま1ステージとして展開させるボーナストラック的なものまで用意されている。
ちょっと異常な程のサービス精神と、引くくらいの愛社精神。しかし、ここまで真剣に愛を語られると真に受けてしまうくらいのエネルギーがあった。
AAAタイトルの3Dアクションゲームの中では、Switch『スーパーマリオ オデッセイ』以来の傑作ではないでしょうか。
クオリティが高すぎて、数多あるアクションゲームの存在が霞むような作品。歴史に残るマスターピースでしょう。
まぁこんな感じで他にも色々とプレイしていましたが、バシッと記憶に残るような感じはなかったので、2024年はこんな感じで。
ここからは2024年に読んだ本、見たドラマ・映画から特に良かった作品5選。
まずは本。ベスト5というよりも、多数のジャンルからそれぞれ目立った作品って感じで。
津村記久子『水車小屋のネネ』
S・A・コスビー『すべての罪は血を流す』
松崎有理『山手線が転生して加速器になりました』
ジョー・ネッター『ブッカケ・ゾンビ』
つーか、5選と言いつつ数えたら6冊になってたので本は6選で。
津村記久子『水車小屋のネネ』
魅力的なキャラクタやストーリー展開の作品は数多くあるが、魅力的な空間を描けている作品というのはなかなかない。
そば屋の離れにある水車を監視するヨウムのネネを中心とした、1980年から40年間を描く物語。
本作ではヨウムを中心とした人々の空間がとても心地よい。
年齢によって考え方というか、社会に対して自分が出来ることが何かという物が変化していく感じ。コレが今の自分に刺さりまくって心にギュンギュン来た。
「誰かに親切にしなきゃ、人生は長くて退屈なものですよ」
この一文ですよ。
私達には子供ができなかったというのも大きいのですが、人生の後半に向けて現在の仕事とは別の第二のライフスタイルに変えていく方向に動き出している中でコレを読んだのは非常に大きかったですね。
S・A・コスビー『すべての罪は血を流す』
暴力!犯罪!暴力!みたいな作品ばかりのS・A・コスビーだが、今回はその怒りを抑制する人間が主人公。
白人至上主義が蔓延るアメリカのド田舎で、黒人保安官として働く主人公が直面する殺人事件。
丁寧な人物描写とテンポの良いストーリー展開、そして明かされる真実。
S・A・コスビーはマジでハズさない。
松崎有理『山手線が転生して加速器になりました』はSFでのベスト。いや、今年のSFは円城塔『コード・ブッダ』だろと言われるかもしれませんし、私も同意しますが、あえてコレを。
凶悪なウイルスによるパンデミックにより都市は放棄される。
もはや誰も乗らなくなり存在意義がなくなった山手線を大きなリンクコライダー(円形衝突加速器)として活用するというSF作品。
笑ってしまうくらいに世界は崩壊してしまったが、そんな世界でも人それぞれの方法で立ち上がる人間たちの美しさが本作にある。
軽妙な中にどっしりとしたSF的要素が相まった、本当に好きな小説。
ジョー・ネッター『ブッカケ・ゾンビ』
面白い本だけれども、どうしようもなく下品な小説なので今回いれるかどうか迷ったが、私は低俗な人間なので入れました。
近所に憧れのAV女優が撮影で来るらしく、しかもその撮影の汁男優を募集しているからノリでオーディンションに行ったら受かっちゃって、いざ撮影に行ったらロケ場所が墓地でゾンビが出てきてという、くっだらない小説。
家に残した妻と子供が心配だけど、帰ったら夜中にお前はどこに行ってたんだと妻に問いかけられるの怖いし、ブッカケAVに参加していたなんて言えないし。でも、そもそもゾンビが怖いから家に帰りたいし。
という中年おっさんのどうしようもないストーリーなのだが、途中のゾンビとワチャワチャしている面白さや、個性的な各キャラクタの良さ。
そして、ラストが良いんだコレが。めっちゃ下品な物語なのに、めっちゃオシャレな終わり方。
若い頃よりもミステリーというジャンル自体をあまり読まなくなったこともあり、そのジャンルとしての良し悪しもわからなくなってきました。
そんな状態なので、今年一番ページターナーだった本を挙げてみた。
イギリス国内でもトップクラスのかしこが通う高校卒業間近の男女6人組。
夜中まで酒飲んで、ちょっとした度胸試し的な感じで高速道の反対車線を飛ばす遊びをスタート。
しかし、対向車が来てしまいお互い避けようとしたら、相手の車が事故って炎上。
6人全員が同乗していたので、この事故が明るみになったら全員の未来が潰されてしまう。
そんな中、一人の女性が自首を申し出る。自分一人が罪を被ると。その代わり、みんなに一つずつ貸しだからね、と。
刑務所に手紙書くからね、面会にも行くからね、刑務所から出てきてもサポートするからね、ズッ友だよ。
そんな事を言いつつも罪を逃れた彼ら5人は、服役している彼女を無視し続けた。まるで服役した彼女を見ないでいれば自分たちの罪が記憶から消えるかのように。
そして20年後に彼女は出所。
それぞれ家族を持ち、仕事を持ち、地位を得た彼らにとって、元受刑者である人物が接近してくるというだけでリスクとなってしまう。
事件から逃げ続けた彼らが、出所してきた女性という避けられない事実に向き合わなければならない。そして彼女が語る、それぞれへの要求とは。
そんな感じのストーリーでマジで読み続けたら止まらない小説。
まぁオチというか展開自体はわりと想像通りに進むものの、一応ミスディレクション的なミステリーらしい仕掛けもあって楽しめた作品でした。
小林照幸『死の貝 日本住血吸虫症との闘い』は名著。
Wikipedia三大文学「三毛別羆事件」「八甲田雪中行軍遭難事件」とあり、もう一つの「地方病 (日本住血吸虫症)」が本書のテーマ。
山梨・福岡・広島で見られた病で、主に稲作や農業・酪農に従事している人々がかかる原因不明の病。かかると成長が阻害され、低身長などの障害から重症化すると腹水が溜まり妊婦のような状態になって死に至る。
原因不明の病とされていた病気を解明するべく、その病に罹った一人の女性が献体を申し出る所から始まり寄生虫を発見。その後、中間宿主となる貝の特定とその貝の撲滅作戦など、この病との100年に渡る闘い。
日本だけでなく、東アジアに多く存在した寄生虫なので、第二次世界大戦中はフィリピンのレイテ島で米兵達がその病気を目の当たりにする。
戦後GHQはそのレイテ島での体験をもとに、日本の医師と協力してさらなる大規模な貝の撲滅作戦へと展開。
その後、同じく寄生虫と貝に悩まされていた中国に、まだ国交正常化されていないにも関わらず日本の研究者や医師らが招聘されるなど、日本の体験・研究を軸に戦争という歴史を越えた貝撲滅の協力が行われていたことも面白い。
この本は1998年に発行された本でしたが長らく絶版だったそうで。んで、2024年に初の文庫化ということらしく。何故こんな面白い本が今まで文庫化されていなかったのか不思議なくらい面白い。
親鸞の言葉を弟子の唯円が書き残し、「善人なほもつて往生をとぐ。いはんや悪人をや」で有名な歎異抄の関連本は山程あるが、その中でも高橋源一郎の書いたこの本はストンと理解出来る気持ちよさがあった。
わかりにくいものをわかりやすくしてもらったことに対し、わかったとしてしまう危険性はあるものの。
タイトルでは一応一億三千万人のと言いながら、本書は高橋源一郎の歎異抄であり、それを取っ掛かりにみんなも自分で読み解いてみようぜという姿勢は面白い。
歎異抄に関しては、詩人の伊藤比呂美が書いた『伊藤比呂美の歎異抄』も良かった。言葉を詩にする人が訳すると、親鸞の言葉さえ詩になるのかという。
その他、
三浦英之『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』
森越まや『イタリア地域精神医療の思想と実践』
塩崎剛三『198Xのファミコン狂騒曲』
鴫原盛之『ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生』
佐々涼子『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』
高野史緒『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』
待川匙『光のそこで白くねむる』
金原ひとみ『腹を空かせた勇者ども』
宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』
背筋『口に関するアンケート』
シェルビー・ヴァン・ベルト『親愛なる八本脚の友だち』
キャット・ローゼンフィールド『誰も悲しまない殺人』
ジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』
カーク・ウォレス・ジョンソン『大英自然史博物館 珍鳥標本盗難事件』
ガブリエル・ゼヴィン『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』
などなど今年面白かった本を挙げだしたらあと20冊くらい挙げられますが、これらは上記6選と入れ替えても良いくらい素晴らしい本ばかりでした。
そしてドラマ・アニメの5選はこちら。こちらもジャンルをバラした感じで。
Netflix『地面師たち』
Netflix『私のトナカイちゃん』
Netflix『マインドフルに殺して』
NHK『虎に翼』
Netflix『地面師たち』
土地の詐欺という地味な題材をテンポよく、かつ緊張感のあるシーンが連続するイッキ見推奨な配信ドラマとして完成度が高く、ひたすら面白かった。
ただ、脚色の部分として、首謀者である男を殺人も厭わないサイコパスとした部分に賛否はあるかも。
詐欺はたとえ捕まったとしても刑がそれほど重くない上に、取得した金銭を洗えば丸儲けであることが重要なので、簡単に人なんか殺しちゃダメなんだよね。そこが人によっては大幅減点ポイントかも。
でも、たぶんこの設定の適当さがこのドラマの面白さでもあるとは思う。マジメ過ぎないというか。勢いって大事。
Netflix『私のトナカイちゃん』
ストーカーとの闘いの話ではあるが、徐々に被害者である主人公の精神が崩壊していくのが凄い。
売れないコメディアンである主人公が、売れないが故に存在価値が揺らいでいく。そんな中、確実に迷惑で非常に怖い存在であるはずのストーカーが心の支え、それは柱ですらない、ただのつまようじ程度の支えであるのに、そこへ寄りかかってしまう怖さ。
純文学的な世界がドラマとして表現されており、これが実話だというからさらに怖い。
Netflix『マインドフルに殺して』
コメディから一つ入れようと思ってDisney+『一流シェフのファミリーレストラン』と迷ったが、シーズン3まで続いている安定した面白さの作品なので、ここはあえて新規の作品を。
ドイツの作家Karsten Dusseの小説をドラマ化(たぶん日本未翻訳ですよね)。
主人公は弁護士のおっさん。多忙過ぎる仕事に加え、顧客がマフィアということもあり、ストレスフルな毎日。家に帰れば妻からは愚痴を言われ、一人娘の記念日パーティにすら間に合わない。
そんな日々のなか、妻からマインドフルネスの講座を勧められる。瞑想や考え方一つで人生が好転するかよと懐疑的ながら行ってみると、講師の言葉にドハマリ。
今、この瞬間が生きる事が重要なのだという教えに沿って考えてみると、大切な家族との時間を生み出すためには、顧客であるマフィアのボスが邪魔だなという結論に。
家族と過ごす時間が必要だからコイツ殺したろってな感じで、後先考えずに殺人を犯してしまう。
その後も、数々のピンチが襲いかかるが(なんせマフィアのボスを殺してますからね)、マインドフルネス講座を思い出しその教えを思い出しながら口八丁で危機を乗り切っていくさまがまぁ面白い。講師にとっては一番良い生徒ですよ。教え甲斐がある。人殺せなんて一言も教えてないけど。
1話30分全8話というコンパクトなシリーズで、途中の展開もまったくダレず、毎話ちゃんとメリハリがあって良い。
終わり方もすごく好き。
人気ゲームのドラマ化。
コレも本当にハイクオリティ。幸せな檻であるVaultを舞台に始まるストーリーと、その崩壊から始まる展開はまさにゲームと同じ。
残酷な要素が多分に含まれているのに、それをコメディとしてしまうバカバカしさや、ラストの熱い展開などゲーム版のあるあるが詰まっていてファンにはたまらない作りでした。
来年くらいにまた『Fallout 4』やりたいですね。
NHK『虎に翼』
日本初の女性弁護士・判事を努めた三淵嘉子をモデルとしたオリジナルドラマ。
女性をはじめとした社会によって虐げられてきた人々にエンパワメントを与える物語として半年間走りきったのは素晴らしい。
特に日本国憲法、その中でも「法の下の平等」というものを真正面からドラマの中に取り入れ、その意味を視聴者の心に届けようとしたチャレンジと成功に拍手。
上記の他にも、
Netflix『極悪女王』
ダンプ松本の物語をベースに当時の女子プロの世界を時にシリアス、時にコミカルに描ききった。最も重要であるプロレスシーンを演出やカメラワークに逃げず、本気の試合として見せた所に気迫を見た。
Netflix『自由研究には向かない殺人』
エマ・マイヤーズの魅力たっぷりのミステリー。シーズン2に更新決定に感謝。
なんとかシーズン3まで更新して、原作の持つ良くも悪くも破壊力ある完結編を見せて欲しい。
Netflix『アーケイン シーズン2』は、姉妹ゲンカの最終章。
映像と音楽。目と耳を通じて融合するエンタメの面白さが存分に詰まっていてハイクオリティ。
終盤はもっと世界全部を巻き込んだ騒動になるかと思いきや、そこはスッと流す感じで終わらせる辺りもオシャレで良かったですね。
2024年のアニメ作品ではダントツでした。
Netflix『偽りの銃弾』
殺されたはずの夫が子供見守り用の室内カメラの写っていたというところから始まるミステリー。ハーラン・コーベンの原作を見事にドラマ化して、ラストまで緊張感高い構成で良かった。
映画『太陽がいっぱい』で有名な原作をドラマ化。
モノクロで描かれたイタリアを舞台に、しょもない動機の殺人によるしょうもない逃亡劇。
登場人物を中年にしたのは正解ですよ。この中年のしょうもなさが中年には沁みる。
Netflix『ザ・ディプロマット』
『HOMELAND』『グレイズ・アナトミー』で有名なデボラ・カーン作品の最新作。
主演のケリー・ラッセルがとにかく良い。マジではまり役。
登場人物の関係が複雑で、それぞれ何を考えているのかわからないところがたまらなく面白い。
シーズン2で話を広げすぎ感はあるものの安定した面白さで、政治を舞台にしたジャンルのドラマでは今トップの面白さです。
Disney+『SHOGUN』
若干海外での評価が高すぎる気はするが、この手の作品に触れてこなかった人たちに訴求出来たという意義は大きい。
日本に漂着したイギリス人航海士ウィリアム・アダムス(按針)の物語をきっかけに、武士というものの価値観や宗教、また同時にその時代を生きる女性たちの物語も絡めて描いたのは上手い。
地上波のドラマでは
関テレ制作『アンメット-ある脳外科医の日記-』
TBS『ライオンの隠れ家』
の2作が良かった。
どちらも脚本や演出が良いのはもちろん、役者がみんな良かったですね。
カテゴライズとしてはドラマに入れても良いと思うが、テレ東のフェイクドキュメンタリーシリーズ『イシナガキクエを探しています』、そして年末に放送された『飯沼一家に謝罪します』は本当に厭な作りで面白かった。
テレ東の大森時生が手掛けた過去作品『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』や『このテープもってないですか?』などあったが、それよりもさらにブラッシュアップされ、人間の肌の表面のような湿り気と古い建物に停滞している湿気、今ではほとんど使われなくなった磁気テープの質感、その組み合わせによる匂いすら感じる不快な映像で楽しませていただきました。さらなる今後の活躍に期待してます。
などなど、今年はNetflix作品ばっかりじゃねーかって思われるでしょうが、上記に挙げた他にもNetflixでは『ブラザーズ・サン』『三体』『寄生獣 -ザ・グレイ-』『殺し屋たちの店』『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』『少年は世界を飲み込む』と大豊作。どれも面白かった。
しかも年末に配信された『UZUMAKI』は伊藤潤二の世界を見事にアニメ化した、ただただ気持ち悪い映像がひたすら流れる作品で素晴らしかったですね。
来年はもうちょっと他プラットフォームのドラマも見るようにしないと。他社の見たいドラマが溜まりすぎてしまった。
んで、映画はこちらの5本。
『哀れなるものたち』
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
『オッペンハイマー』
『関心領域』
『喪う』
一応今回挙げた本や映画などは順不同でランキングではないとしながらも、今年の映画1位は『哀れなるものたち』がダントツであったと言わざるをえない。
『フランケンシュタイン』の著者メアリー・シェリーをベースにした創作で、『My Body, My Choice』のフェミニズム的な側面に注目される一作であるが、幸福とは何かという問いを描いた作品として強烈なメッセージ性を持っている。
哀れなるものたちというタイトルにある哀れなるものは誰なのか。社会への適応になんの疑問も感じず、自分の心の声を聞かない、常識に縛られたまま生活をしているこの映画に登場する女性を見て眉をひそめたお前たちのことだよって一刀両断にする切れ味は痛みを感じない程に鮮やか。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
内戦によって東西にわかれたアメリカの物語。
そもそもこの戦争がなぜここまで激化したのかという部分など、詳細がまったく描かれていないところが非常に上手いし怖い。
シューティングゲームのマルチプレイみたいなもんですよね。戦争なんて始まってしまえば「相手が撃ってくるんだから撃つしかない」「殺さなきゃ殺されるんだよ」って世界。
一度闘いが始まったら戦争を始めた意義はどうでもよくなるし、逆にこの戦争や混乱をいかに利用するか。それは人によってキャリア・スキルアップかもしれないし、ただの快楽かもしれない。
アレックス・ガーランドらしい人間の本質に対する皮肉が入っており、「結局お前らやりてーんだろ戦争を。自分と意見の違うバカを殺したいんだろ。固定化された世界をリセットしてのし上がりたいんだろ」ってテーマの作品で、かなり危険な映画ではあると思います。
『オッペンハイマー』
アフリカのことわざに「斧は忘れても、木は覚えている」とあるが、被団協がノーベル平和賞を取る一方、こういった映画が時を同じくして作られたことに大きな意味がある。特にいつどこで発火・飛び火するのかわからないような世界情勢の中においてね。
マンハッタン計画により原爆を作り上げた男の凝縮した物語。
天才の苦悩というと急に陳腐な表現になってしまうが、まさに苦悩し続けた科学者。
ただ正直初見で見たときはかなり難しい映画で内容が追えない箇所があった。後に藤永茂(著)『ロバート・オッペンハイマー ――愚者としての科学者』を読んで補完した感じ。
つーか登場人物多すぎ&説明無し、しかも時間軸がコロコロ変わるので単純に難しい。クリストファー・ノーランはそういう監督だとわかっていてもですよ。
昔の2時間ドラマみたいに、途中でホワイトボードに登場人物貼っつけて説明してくれよって思っちゃった。
ただこの映画、光の演出が凄いですよね。やっぱ原爆は光なんだな。
『関心領域』
このタイトルと原題『The Zone of Interest』が凄い。タイトルの勝利だよ。
ホロコーストが行われていると同時に、平穏な日々を暮らす家族を描く事によって、現在の私達が関心を示していない領域があるのではないかという事実を突きつける。
実在したアウシュビッツの所長ルドルフ・ヘスをモデルとした家族の生活を覗き見(ロングショットの定点カメラが多いのでまさに)している感じ。
実はこの仕事自体に嫌気が差しているように見える夫と、それには一切関与せず夫の仕事だけでなく夫自体にも無関心を貫く妻という対比も面白い。
監督・脚本のジョナサン・グレイザーの作品は『アンダー・ザ・スキン』くらいしか知らなかったが、今後は要チェックですね。
もともとミュージックビデオ出身の人(有名なのはジャミロクワイの『Virtual Insanity』)だからか、音響と映像の組み合わせにめっちゃ凝っている作品で圧倒された。
『喪う』はNetflixの作品。
末期がんの父を自宅で看取るために集まった三人姉妹の物語。
それぞれが離れて生活していたり、ライフステージが違う故にケンカばかりだが、話題が急に飛んだり、過去の話を今さら蒸し返して裏ドラ乗っけて怒るみたいな会話のリアルさが非常に良かった。
向田邦子の描く家族のような、優しさと面倒くささと面白さが相まった映画。
向田邦子といえば、『阿修羅のごとく』が来年Netflixで再ドラマ化されるので楽しみにしてます。
音楽はあのトルコの軍歌じゃないみたいですけど。
上記の他にも、
『インサイド・ヘッド2』
思春期の感情を思い出して、背中が痒くなるような映画で良い。この感じあったねっていう。
Netflix『レベル・リッジ』
BLM以降の映画として思想強めではあるが、ノーキルのスタイルで打開していく様が面白い。パシフィストボーナス!!
Netflix『ポップスが最高に輝いた夜』
映画というかドキュメンタリーになりますが、『We Are The World』のレコーディングの一夜の記録。シンディ・ローパーのかわいさと、親戚の法事に来た高校生みたいなボブ・ディランが見所。
最後に音楽。
Spotifyの2024トップソングまとめからジャンルをバラした感じで上位5曲。
まずジャンルとしては一番聴く回数が多いドラムンベースはこちら
DJ Marky & SOLAH - Poetry (Makoto Remix)
今年はDJ Markyの一年。日本ツアー、KOCHI EPのリリパ最高でした。
来年初めにMAKOTOも来日ですよねぇ。ヤバイ。
2位以下は、Yue『Set Sail』, Hugh Hardie『Sweet Talk』, Shogun Audio『Never Let You Down』, Sly Chaos & Ayah Marar『Real Love』と続きました。
K-POPからはこれ
NewJeans - Attention
この曲好きすぎるだろって感じで、実は去年もK-POPでは1位でした。
もう殿堂入りしときます。来年も一年のまとめを書くとしてもこの曲は無しで。たぶん一生聴く。つーかNewJeansのゴタゴタが早く解決すると良いですね。
このジャンル、2位以下はLE SSERAFIMの『Perfect Night』と『Crazy』が続きます。
聴いている回数としては『Crazy』の方が多い気がしたが、たぶんBounce Up Remixってコレまた中年直撃みたいなりリミックスが同時にリリースされてて分散しましたね。
で、その次にITZY『Algorhythm』と。
国内アーティストからはこちら
XG - IYKYK
m-floのサンプリングされちゃうと中年はうれションものですが、まぁこれも良く聴いた。
2位以下はJazztronik『NewWorld feat. ELAIZA』にハマった流れで、FPM, Mondo Grossoなどの古い和物ハウスをひたすら聴いた一年だったようです。
新しい所では、Mameyudoufu『Chasing』, その他Blu-Swingや80Kidzが入ってて驚きましたね。確かに80Kidz『Tonight』を一時期めっちゃ聴いてた。
UK GarageやBaselineは即効性のアッパー効果があるので、カフェイン的にかけることが多いが、そのジャンルからはコレでした。
NOTION - TEMPORARY FRIENDS (feat. Charlotte Plank)
そりゃコレだわ。運転中に毎日かけてた。
以下Nikoi『Silent Night』, Eats Everything, Chris Lorenzo, Lily McKenzie『Ghosts』と続きます。
そんなこんなで、最後は全てのジャンルから一番聴いたアーティストはこちら。
KNOWER - Nightmare
2023年にリリースされたアルバムを今年も聴き続けてました。
その中でもコレと『It's All Nothing Until It's Everything』は本当に何度もリピートしたし、今後も聴き続けるだろうね。最高のアルバム。
こんな感じで2024年のまとめは終了。
年末に長文!お前暇だな!っていう最後の投稿でした。
今年もありがとうございました。良いお年を。