月刊 追い焚き作業

見て聴いて読んで遊んだ記録です

2023年5月の購入予定と4月の話 『ファイナルファンタジーIII ピクセルリマスター』『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』『黒衣の外科医たち 恐ろしくも驚異的な手術の歴史』『BEEF』

もう10年以上は使っていた皿を割ってしまいまして。

あまり売ってないようなデザインかつ絶妙に使いやすい大きさと深さの皿だったのに。

いやー失敗した。

 

そんな5月の購入予定です。

5月12日

Switch『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

前作はオープンワールドというジャンルでの到達点のような作品として君臨しておりますが、それを続編で越えられるのか。

これを書いている今からそわそわするぐらい楽しみ。

 

今月はこの1本かな。

あと5月2日にGAME PASSで配信される『Redfall』はちょっと触るかも。

 

 

それでは先月プレイしたゲームの話。

Series X『アサシンクリード オデッセイ』

またアサクリかよって感じですが、そう、またなんだ。しかし何度でも全然遊べるな。

特にゲームに関して書くことはないのですが、今回難易度ハードでやったら戦闘のバランスがちょうど良くて楽しかったです。

 

と、それだけではアレなので、相変わらず集めて読んでいる古代ヨーロッパ関連の本を紹介。

パット・バーカー(著)『女たちの沈黙』

ホメーロスの『イーリアス』。トロイア戦争を中心に描かれた叙事詩でありますが、その物語では無視されていた女性達を主人公に、彼女たちの視点で語るとどう見えるのかという一冊。フェミニズム文学などのジャンルとしてある語り直しですね。

戦争の戦利品となった王女ブリセイスを中心に、男たちの怒りと殺戮の中で翻弄されるしかなかった弱き者たちが耐え忍んだ日々が見事に綴られている。

 

そもそも『イーリアス』自体が吟遊詩人の歌が元というのもあるのか、正直物語としてはいまいちピンと来ないと言いますか。

そんなとらえ所の難しい作品に対して、悲しみの海の中にある彼女達だからこそ見える生を中心に描く事により、『イーリアス』に補助線を引くような作用をしており、新たな視点によって全体像がハッキリと見えたような発見があって良かった。

 

もう一冊、ジェラール・クーロン(著)『古代ローマ軍の土木技術』が凄い。

古代ローマの建物や橋、インフラなどがどのように建築されたのかがめっちゃ細かいイラストと共に紹介されている。

ローマ帝国と言えども年がら年中戦争に明け暮れていたのではなく、戦いがなく兵士たちにも暇な時間があった。しかし、それでは遊んでいる人員がもったいないということで、橋の建設から、トンネル掘り、道を繋げたり水道の整備など公共事業が行われていた。

そこで使われた土木技術は当時としては最先端の技術で、その粋が注ぎ込まれて街が整備されていったという訳です。

コンクリートの普及もこの時代(ローマン・コンクリート)であるように、現在にまで続く技術どころか、逆に今の物よりも質の高い技術が使われていた事にも驚かされます。

 

 

ゲームをもう1本。

PS4ファイナルファンタジーIII ピクセルリマスター』

既にピクセルリマスターシリーズはPCとスマホ版でリリースされており、そちらの評判はあまり芳しくない感じだったのでスルーする予定でした。

ところが今回のコンシューマ版発売にあたり、ゲームの演出からフォントなど多くの改善がなされたようで。

 

そんな追加要素の中で特に私の中で重要だったのがBGM。

PC・スマホ版ではアレンジBGMしか収録されていなかったが、コンシューマ版からはBGMがオリジナルとアレンジと切り替えられるように。

やっぱ音だけはオリジナルが良い。これだけは譲れない。

 

以前のブログで何度も書いた気がするが、私が始めてRPGに衝撃を受けた作品って『ファイナルファンタジーIII』なんですよ。

もちろん『ドラゴンクエスト』を買ったり友達に借りてプレイしたりしたけれど、そこまで面白さを感じることはなくて。ずっとアクションゲームが好きだったからね。

 

そんな小学生だったある日、この『FF3』を友達のお兄ちゃんが持ってて、そこで遊ばせてもらったんですよね。

起動して最初に流れるクリスタルのテーマ。

4つ打ちのバスドラムのイントロから始まる戦闘曲。

そして、最初のダンジョンをクリアしてフィールドに出た瞬間、まるで風に乗った草の匂いすら感じるBGM『悠久の風』。

流れる全ての音楽に体中を衝撃が走った。

 

この一連のオープニングを遊ぶだけで、小学生だった当時の記憶、それこそゲームやりながら食べてたICEBOXのグレープフルーツの味すら感じる程。

これはもう完全に原体験であって、当時の音楽でなきゃダメなんですよ。いくら素晴らしいアレンジだとしても、オリジナルの体験とセットになった記憶を思い出しながら反芻する甘みには勝てない。

 

で、このピクセルリマスター版では当時の雰囲気をそのままに美しくリマスター。

オート戦闘や早送り、もらえる経験値やお金も調整出来るので、サクッと遊べるのが良い(ここも私はオールドスタイルなゲーマーなので、数値イジらずに遊ぶのが好きなんですけどね)。

当時のオリジナル版の価値はもちろんありますが、やはり昔のままでは遊び辛い部分もあるというのがゲームというメディアの特殊な所で。

その意味では、現在出ている多数のプラットフォームで当時の雰囲気を壊さず名作ゲームが遊びやすい形で残っていくというのは嬉しい(あとはこの追加要素がPC・スマホ版にアップデートで追加されたら完璧ですね)。

 

ファミコン版をプレイしていた当時はレベル上げをしながらファミ通読んだり、宿題やったりしてましたが、数十年経った今回でも電子書籍読みながらレベル上げしてたりして、そのプレイスタイルすらも懐かしんで楽しませていただきました。

せっかくFF1~6までの全作セットを買ったので、他ゲームの合間にちょこちょこやっていこうかな。

 

 

ここからは、その他のお家エンタメ。まずは本。

長谷敏司(著)『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』

コンテンポラリーダンス界の期待の星であった主人公が、ある日バイク事故により右足を失ってしまう。

AI制御を取り入れた最新式の義足を使い、もう一度舞台に立てる日を夢見るが、その矢先、父親が運転中に事故を起こす。

そして事故のショックからか、父は認知症を発症。

義足を使ったリハビリとダンスの練習、それに父の介護という現実を戦う日々の中で、人間性とは何かという問題に向き合う、という話。

 

実はこの父も若い頃から年老いた現在まで現役のダンサーであったが、息子とは方向性の違いから反目していた親子であった。

それが突然降り掛かった介護という状況によって、強制的に向き合わざるをえなくなった。記憶の喪失により父親像というものが崩壊していく中、人が人という存在であるということはどういう事なのかという本質へと物語は流れていく。

 

自身の右足の喪失。父親の記憶の喪失。2つの大きな喪失があり、また介護という過酷な現実を前にもがき苦しむ中で、逆にある種人間の中にあるindestructibility(不滅性)という根本に行き当たる。

認知症によって失われていく記憶の中にあっても、古い層にあったり断片化したような思い出がいつまでも脳の深い所に収められ、その集合がその人らしさを構成している。

そんな記憶のコアにある欠片が一瞬でも見つけられた時に感じる人間の不滅性。

 

言葉という網の目の粗い表現では抜け落ちてしまう小さな欠片を見つけ出すため、親子二人だけで踊るコンタクト・インプロビゼーション(お互いの体を接触させたり体重をかけたりしながら即興で表現するダンス)の中で、言葉を越えた身体表現に至る。

それによって息子・父・AI制御の義足という3者が新たなプロトコルを生み出す瞬間、人間性とは何かという疑問や心の底の澱が融解していく。

そのラストに現れる希望と喪失の表現には涙した。

 

本書は一応カテゴリとしてはSF小説に入り、その視点としては、このAI義足の身体性を通したテクノロジーと人間との関係性。

身体性を獲得した機械が言葉という物を越えた経験が出来る存在として人と横に並ぶことが出来たからこそ生まれるコミュニケーションが描かれていて、とても良い。

 

 

もう1冊。

アーノルド・ファン・デ・ラール(著)『黒衣の外科医たち 恐ろしくも驚異的な手術の歴史』

外科手術というものは、19世紀になるまで非常に危険性が高い上に、治癒率の低い分野だった。有名な話ですが、18世紀辺りまでのヨーロッパでは外科は床屋が兼ねていたというぐらいで、その処置も瀉血がメインというほぼプラセボ頼り。

また、行商のように町から町へと移動する外科医も多く居て、彼らがなぜ移動するかと言えば、失敗したらすぐに逃げれるようにするため。行商医に必要なのは、技術や知識ではなく足が速い馬と言われるぐらい危険なものだった。

本書では、それら古代から中世に行われた手術をメインに、当時はどういった処置がなされていたのかを知る事が出来る一冊。

 

まず最初に紹介される事例が、膀胱を自分で切り裂いて結石を取り出したおっさん、という入りからもう面白い。

17世紀のオランダの話で、当時は衣服も不衛生で尿道から細菌が入りやすく、また飲料用のきれいな水が手に入りにくく膀胱内を流す尿量も少ないため、膀胱結石の患者が現代と比べて多かった。

 

しかも、その膀胱結石の手術方法がなかなかにハード。

膀胱結石を取り出すには、会陰部と呼ばれる肛門とタマキンの間を切る必要があり、手順としては、まず患者を仰向けに寝かせ、両方の足を真上に上げる。

医師は肛門に人差し指を入れて、直腸を通して膀胱にある結石を手前の会陰部に持ってきつつ、助手に患者のタマキンをペロンと上に持ち上げてもらい、会陰部から膀胱までを切り裂く。なんとかそこから石が取り出せたら、あとは切った傷からの出血を抑えるために、ただひたすら圧力をかけて血が止まる事を祈るだけ。

もちろん当時は麻酔などもないため、この痛みに耐え続けなければならない。

 

この手術に2回も耐えた鍛冶屋のおっさんが、3回目の結石を患い、もう面倒だから自分でやるわってことで、自らこの手術をしてしかも成功させたというから凄いというか、どうかしているというか。

まぁそのぐらい当時の手術というのは血みどろで危険な行為であった。今でこそ医者といえば白衣や手術着の青や緑を想像するが、昔は手術中に患者の血が周辺に飛び散ることは避けられない為に、血の色が目立ちにくい黒衣の医者が多くいたというわけです。

 

本書ではコレの他にも、虫垂炎・がん・壊疽・ヘルニア・人工関節・包茎・去勢などなど古今東西さまざまな手術のケースが書かれている。

そしてこの本が面白いのが、著者はオランダで実際にメスを握る現役の外科医だということ。

過去の手術の事例を紹介しながら、現在の処置ではどうなっているのかを比較。当時の技術としては最善であったのか、それともまったく見当外れな手術であったのかをわかりやすく解説してくれている。

 

ちなみに本書の他に、リディア・ケイン(著)『世にも危険な医療の世界史』(こちらは訳者が同じ)や、トレヴァー・ノートン(著)『世にも奇妙な人体実験の歴史』もあわせて是非。

医療に限らないことですが、技術を加速させるのは、いつも枠から外れたヤバい奴らなんだよね。

 

 

ここからは映像関連。

Netflix『BEEF』

ビジネスが上手くいかず行き詰まって自殺をも考える男性。

その一方、ビジネスに成功したが仕事と家庭の両立に悩み、相談相手の夫はモラハラ・ロジハラの歩くビジネス書みたいな頭空っぽの男、そんな日々に行き詰まった女性。

ロサンゼルスに住むその二人がたまたま店の駐車場でちょっとクラクションを鳴らしたことから事態は一変。あおり運転にカーチェイスとヒートアップ。

その後、日をまたいでも二人のケンカは収まらず、あれやこれやで相手に一泡吹かせてやろうとする話。

 

タイトルの『BEEF』というのは、牛肉のビーフというだけでなく、"不満"や"逆上"、"恨みを持つ"という意味があるそうで。

溜まりに溜まって溢れそうになった日々の不満が、駐車場のクラクションによって溢れ、その喧嘩はお互いの家族をも巻き込む大騒動になっていく。

1話30分程度の10エピソードと比較的短めなのだが、その1話1話に怒涛の展開が用意されており、そのネタがここで生きるのかという、フリと回収が見事な作り。

 

お互いが動けば動くほど被害が広がる負のピタゴラスイッチとなったケンカは、最終2話にて怒りのピークを迎える。

もはやこの二人だけの問題ではなく、多くの登場人物によって絡み合った糸は原型すらわからない程に複雑な塊に。

動けば動くほど悪化するのはわかっているのに、それでもなんとか相手に一矢報いようとのたうち回る二人の無様さ。

だが、あまりにも醜い感情をお互いぶつけ合った結果、そこに対話が生まれ、一筋の光が射す。

そして惨めさを含めた生きるという行為そのものから人間という生き物の根源すらも表現した笑いと涙へと昇華する。

 

あらゆるものには相反した属性を含んでいる。

怒りに飲み込まれた時には、誰よりも柔らかい言葉を求める寂しさを。

地べたを這いずり醜く足掻いている時には、もう一度立ち上がろうとする美しさを。

誰か一人に優しさを与える時には、対象以外の他者を蔑ろにする薄汚いエゴが表出される。

その到達点である最終話は、思わず唸ってしまう程に見事な着地。素晴らしいです。

 

あとドラマ本編とは関係の無い話ではありますが、本作は映像プロダクションの『A24』制作でして。

ここ数年で見る映画やドラマのオープニングクレジットに『A24』を見る度に、またここかって思うぐらいに増えて来た印象がある。

最近だと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(日本のなろう系・セカイ系アニメを見ている人には斬新さが薄い話)、『ザ・ホエール』(太りすぎたおっさんが死ぬ前に何を考えているかわからん娘との関係を再生させる話)、この『BEEF』でも主演したスティーヴン・ユァンの『ミナリ』(おばあがセリ植えて要らん事する話)、『NOPE』(空からめっちゃヤバい奴が来る話)などなど。

プロダクションで見に行っている訳ではないのだが、公開スケジュールや予告を見て「おっ!コレ見よっ!」って思わせる作品がことごとくA24って感じ。

アリ・アスターの新作『Beau Is Afraid』も楽しみなんだよねー、ってもう完全にやられてますね。

 

 

最後に音楽。

今月は2曲のみ。

YMO - 以心電信

 

坂本龍一 -  Ballet Mecanique

大江健三郎高橋幸宏坂本龍一、そして本の雑誌の創刊者でもある書評家北上次郎こと目黒考二

今年は私の遥か先を行き、道標となっていた先輩方の訃報が多くて本当に寂しい限りです。

NHKで放送されていた『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』。大切に残していた録画を再度見たり、大江健三郎作品の中でも特に好きな『「雨の木」を聴く女たち』を偲びながら再読しております。

お疲れさまでした。